泣きの一曲

2004年12月11日 恋愛
それはスタ・レヴィの「木蓮の涙」

この曲と分かち難く結びついている、ある男がいる。
ここでは仮に「木蓮の男」としておこう。

この曲の歌詞を知ってる人なら、
「木蓮の男」がすでにこの世にいないことは察しがつくだろう。
彼はもう10年以上も前に、事故で亡くなっている。

ワタシが彼に出会ったのはそのほぼ一年前だったろうか・・・

恋愛と呼ぶ値打ちもない、
ほんの行きずりの関係になるハズだった。
彼がその話を私にしなければ・・・

それは現役レーサーの武勇伝ではなかった。

彼はヨーロッパの地方都市に生まれ、
やがてその街の郊外にサーキットが出来た。
そのオープニングイベントとして、F−1がやって来た。
彼は一睡もせず、
マシンを載せたトランスポーターを待ち続けた。
そして、明け方ついに、彼の目前に、
地上最速のマシンが姿を現した。

その時、彼はF−1ドライバーになると心に決めたそうだ。
反対する周囲の人々の中で、
ただ一人、彼の決意を尊重し、応援してくれた
彼が敬愛してやまない祖母のことを話してくれた。

人の車のメカニックをやりながら資金を稼いで、
ようやくプロのレーサーとしてのキャリアが始まったことも。

今ではもう、何故彼がワタシにそんな話をしたのか、
尋ねるすべもない。
彼には何人もの美しい恋人がいたのに、
なぜわざわざ、さして若くもない東洋の女に
自分が辿ってきた道のりを吐露しようとしたのだろう。

何度かの逢瀬の後、
ある時、彼は遂に自ら望んだ、
トップカテゴリーに名を連ねることになった。

彼は遅咲きだったから、最早勝利は望めないだろうと思った。
実際、1戦目は辛うじて予選通過。
ほどんど最後尾でチェッカーフラッグをうけた。
完走したら、次の目標はポイントゲット。
そう心に誓ってコースインした彼は、
そのまま二度とゴールに戻ってくることはなかった。

彼は命を落とすその瞬間まで、
より速く走ること以外、何も考えてはいなかっただろう。
なぜ?自分の命と引き換えにするだけの値打があるから?

その疑問に、自分なりの答えを見つけ出すために、
ワタシもサーキットを走ってみた。
彼が何100LAPもしたであろう鈴鹿を。

答えはそこにあった。

今、彼の記憶は浄化され、最も美しい宝石となって、
ワタシの心の中にある。
そしてそこには、先代の白いKeiもいる。

ワタシにとって、永遠に色褪せることのない、
いや、日々その輝きを増していく、大切な宝物。
これからも一生胸に抱いたまま、
供に生きていこうと思う。

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